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饅頭こわい お茶こわい

本好きのただの日記。こわいこわいで食べ放題。

息子が死にたくないと泣いた

ある日、帰宅すると家の前で息子(5歳)の泣き声が聞こえてきた。
窓が開いているので、それを諭すような母親の声も聞こえる。
またわがままを言って怒られたのかなと玄関を開けると、絶叫の中、妻が困った顔をこちらに向ける。
「死にたくないんだって」
何の話だかわからんが、私の予想はどうやらはずれていたようだ。
「ニュースで亡くなった人のことをやってたの
ぼくもいつか死ぬの?って言ってて…
最初は、『そうなんだ~』って平気な顔だったのよ」
ついにこの時が来たと思った。
息子はしばらく考えて、死を理解するとだんだん怖くなってきたようだ。

死にたくないよぉ
死ぬのやだよぉ
生き返りたいよぉ
パパとママとずっと一緒がいいぃ
死にたくないぃ
ずっと生きてるぅ
いやだよぉ 


自分が子供の頃を思い出す。
幼い頃、大好きだった祖父が亡くなって二度と会えないことを理解したとき、私はいつかやってくるだろう自分の死に震えた。
死ぬと何もなくなる。
夜中にトイレにいくのも怖かったし、暗闇や孤独がたまらなく不安になった。思い浮かべる祖父の顔が死の象徴のような気がして、大好きだった人のことを思い出すことが嫌になってしまった。

それから20数年経って、親父がガンになった。
その当時、私は結婚を間近に控えており、新居に引っ越すために親父から軽トラを借りる約束をしていた。親父も手伝ってくれるはずだった。
母親からの電話で親父が危ないと聞かされたとき、私が真っ先に考えたのは「引っ越しどうすんだよ」ということだった。
あの親父が死ぬなんて信じられなかった。
親父は鉄のような男だ。
幼い頃もらったげんこつは痛かったし、頑固で人の意見は聞かないし、腕相撲で勝った試しは大人になっても一度もない。
母にも暴力を振るってよく泣かせていたし、事業が上手くいかず多額の借金もあった。
尊敬できるような男ではなかった。
その親父がもうすぐこの世から消える。
病院で二人きりになったとき、怖いと言って親父が泣いた。
私の前で涙を見せたのは初めてだ。
私は逆に親父の前で泣くのはやめようと決めた。
しかし一人になると涙が止まらなくなって、死ぬと何もなくなるという恐怖を思い出した。
それから2ヶ月後、鉄のようだった男は小枝のようにガリガリに痩せ細ってあっさり死んだ。



息子は泣きながら何を思ったろう。
日々新しいことを吸収し、楽しいことも悲しいことも次々に増えていく幼い子供にとって、何もなくなるというのは想像しがたい恐怖だ。
肉体がこの世から消えてなくなる。心もなくなる。
仲良しの友達とも二度と遊べない。
がんばって作ったレゴも意味が無い。
死にたくないと思うこの気持ちもなくなるの?
何もないってどういうこと?
死んだその先の世界を誰も知らない。
ただ、何もない―


ipadyoutubeを見て笑いながら、時折思い出したように死にたくないようとグズる我が子。
「生まれ変わってもママがまたあなたを産んであげるよ」と言って妻が小さい手をぎゅっと握りしめる。
私は何か父親らしい言葉をかけてやりたいと思うが何も出てこない。

寝る前、布団に寝そべって息子が歯磨きをしている。
「そっか みんな死ぬか」と天井を見上げてつぶやいた。
頭をなでながら、ブログのネタになるかなとメモをとるしょうもない親父であった。