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急な打ち切りで続きが気になってしょうがない漫画「度胸星」

先日「セクシーボイスアンドロボ」のエントリーの中で、「未完で終わらせるのがこんなに惜しいと思う作品は他にない」ってなことを書いたんだけど……あった。結構あった。

 

今日はその中でも特に続きが気になる終わり方をした漫画「度胸星」を紹介したい。

 

へうげもの」の作者 山田芳裕の作品。

2000年から2001年にかけてヤングサンデーで連載された。

正確には未完ではなく、打ち切りで唐突な結末ではあるが一応完結している。

 

 

 

1969年のアポロ計画から50余年、「第4惑星への計画(エンターフォー)」を推し進めてきたNASAは、ついに人類を火星に到達させる。宇宙船スキアパレッリの乗組員 スチュアートが火星の地に降り立ったその時、突如地球との通信が途絶える。火星に取り残された4人のクルーを救出するため、アメリカは新たなクルーを募集すべく世界中に呼びかける。日本でトラックのドライバーをしていた三河度胸はクルー候補生に応募し、厳しい選抜試験を切り抜けていく。

 

この序盤の火星で起こった事故の原因となった謎の物体 テセラック。火星に唯一残された宇宙飛行士 スチュアートが命名したもので、彼の目の前で仲間のクルーが乗った着陸船も、軌道上に浮かぶ母船もあっという間に破壊している。

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この描写を見て、最初は作画がおかしいと思った。スチュアートの目の前でゆっくりと垂直に上昇したテセラックが、なぜか遠くに浮かぶ母船をブチッと潰している。遠近感をちゃんと表現できていないんじゃないかと。この作者は遠近感を大胆に強調して描くのが特徴で、「デカスロン」でも独特の作画を見せていたので、その傾向がここでは裏目に出たんじゃないかなと思っていたのだ。読み進めるうちにそれが誤解だと分かって感嘆させられた。

 

テセラックを見て最初にイメージしたのはやはり「2001年宇宙の旅」のモノリスだ。

この映画に登場した漆黒の石版のような謎の物体は、地球創世記から時代や空間を越えて現れ、人類を導く存在として描かれていた。作者のやりたかったことはこういうことなんだろうか。

中途半端に打ち切りになってしまった今となってはわからないが、モノリスと違うのは、テセラックは明らかに意志を持っているということ。母船を破壊したり、時にはスチュアートを助けたり。スチュアートの働きかけに対して明確なリアクションがあるわけではないが、気まぐれで思わせぶりな態度は、人間より遥かに高い次元の「生物」あるいは「生物がコントロールしている何か」のようだ。

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上の写真の状態から折りたたまれたテセラック(3次元では立体を折りたたむのは不可能)

 

tesseract」の意味を調べると「立方体の4次元の相似形」(weblio)だそう。作中でも描かれているが、我々3次元の人間に視認できるのがあの二重になった四角い箱のような形の部分だけ。

ちょっと頑張ってお勉強。

もし仮に2次元に住む人間がいるとしたら、その人には3次元の立方体を見ることはできない。見えるのは2次元に触れた面の部分だけか、あるいは投影された姿だけである。同じように、我々3次元の人間が4次元のものを目で見ることができるのは接触している一部分だけか、投影されたものだけ。で、あの形は、4次元の立方体を3次元に投影したなのだ。

という理解でよろしいのかな。

(ちなみに4次元立方体の理解にはこちらがとてもわかりやすかった。http://d.hatena.ne.jp/Zellij/20121201/p1

 

あれ?

漫画の中で、スチュアートが見たテセラックは白いモノと黒いモノ、二つだったよな。黒い方は実体がなく、すり抜けることができた。スチュアートは「黒い方は影」だと言っている。

ん?白い方は影じゃないの?

ただ単に私の4次元の理解が間違っているんだろうか。

きっと作者はこの漫画を描くためにかなり調べただろうし、詳しい人に取材したりもしたはずだと思うんだが。これを作者が意図して描いていたとしたら、もし連載が続いていたら、このへんの謎がきちんと解明されていたら。もしかして3次元の生物が4次元の物体に見せかけるために仕掛けたものだっていう可能性があったのか?ああ、続きが気になる。

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白い方は物体の一部なの?全体の姿が投影された形じゃないの?

 

もうちょっと頑張って調べてみようかな。

重要なキャラとなる予感が満載だった坂井輪夫妻。ともに物理学者で、揃って火星へのクルー候補生として最終選抜まで残っていた。もし連載が続いていたら、火星に旅だった度胸たちと通信してテセラックの謎を解明する手助けをするはずだったのだろう。その坂井輪夫妻の研究テーマだったのが「超ひも理論」。

超ひも理論」とは10次元でほにゃらら。

だ、だめだ、手に負えない。

 

 

 

 

話は変わるが、宇宙に憧れを持っている人で漫画好きは、きっと「宇宙兄弟」も読んでいるだろう。この漫画には宇宙飛行士 野口聡一氏の有名な2次元アリと3次元アリの話が引用されている。広い視野と柔軟な発想を持った者が、次元を引き上げるという話。「宇宙兄弟」は主人公がこの話を聞いて感銘を受けるという現実的な描写だったが、「度胸星」はファンタジックな要素を加えて、まさに次元を引き上げる者を描こうとした漫画だった。

 

物語上、テセラックの存在を伝えようとしたスチュアートの記録は地球まで届かない。新たに火星まできた筑前たち救出ミッションのクルーも、火星到着直後、地球との通信がとれない状態になってしまう。主人公 三河度胸は彼らを救うため、ロシアの宇宙船で火星に向けて飛び立つのだった。

ここで終わりいいいいいいいいい?

嘘でしょおおおおおおおお?

これプロローグでしょ?

 

SF漫画は数あれど、これだけ緻密に構成されて、NASDA(現JAXA)にもしっかり取材して、魅力的なキャラも、過酷な選抜試験を乗り越える見事なプロットも、文句のつけようのないほど面白いのに。これホントに当時人気なかったんですか?この漫画のファンは宇宙兄弟が大ヒットしたときに皆思ったはずなんだ。

度胸星」のほうが面白いのに!

 

 

 

どうでもいいけど、この二つの漫画でJAXAの閉鎖環境での適応検査はすっかり知れ渡ったと思うんだよね。特に宇宙大好きな人にはもれなく。今後、選抜試験やるときはどうするんだろうか。