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饅頭こわい お茶こわい

本好きのただの日記。こわいこわいで食べ放題。

「とめはねっ!」を読んで書道をやってみたくなった

とめはねっ!鈴里高校書道部 12 (ヤングサンデーコミックス)

書道を学ぶ人って今どのくらいいるんでしょうか。
青春書道漫画。現在12巻まで刊行。
「帯をギュッとね(柔道)」や「モンキーターン競艇)」を描いた河合克敏のニッチな漫画第三弾。
井上雄彦が「スラムダンク」を連載するときは“バスケ漫画は当たらない”っていうのが漫画界での通説だったとあとがきに書いていた。オタク文化が世間的に認知されるようになって今やこういうニッチな漫画もたくさんあるが、その中でもより一般向けで誰が読んでも面白い漫画だと思う。
この人の漫画、なぜか地味なんですよね。テーマだけじゃなくて絵柄や表紙のデザインも。すごく面白いのに大ヒットにならないのはこの地味さ加減なんじゃないかと思うんですが。まあモンキーターンはアニメになってるし、とめはね!もドラマ化されているのでそれなりに売れているのかな。もっと人気でて欲しいような、欲しくないような。
さて、気弱で真面目なガチャピン男 大江縁はカナダ帰りの書道初心者。脅されて書道部に入部した先輩女子のいじられ役。かたや騙されて入部することになった柔道の逸材 望月結希。天真爛漫で負けず嫌いのヒロインも書道初心者。この二人を軸に恋と部活を描いた漫画なのだが、恋のライバルはどんどん出てくるのに肝心の二人の距離は12巻まで進んでも全く縮まらないという読者にはかなりヤキモキさせられる展開が続いている。まあこの微妙な距離感がこの漫画の面白さなのだが。
思えばモンキーターンでもこの微妙な距離感を保った恋愛模様は長ーいこと続いて最終的に賛否分かれた結末は読者を楽しませてくれた。ちなみに自分は青島派。
青春漫画としては定評がある人なので今更私が書くこともないかと。
ここではこの漫画によって書道に惹かれることになったことについて書いてみようと思う。

この漫画には「書道監修」として武田双雲氏がクレジットされている。テレビにも多数出演されていていまや大人気の書道家。テレビ番組「世界一受けたい授業」の企画でも何度も取り上げられていたリレー書道。一文字を一人一画ずつ数人でリレーのように書いていく対決は、書道を団体戦としてみせるとても面白い企画だと思う。このリレー書道、漫画の中でも取り入れられている(2巻収録)。「母」という字をリレーで対決することになった鈴里高校と鵠沼学園。一画目で書き順(筆順)を間違えてしまった望月の失敗を驚くべき発想で見事とりかえした縁。書道素人の私にはこれが本当にバランスがとれた書なのか正直疑問なところではあるが、書道でこんなに面白い展開がつくれるとは。
駅前で揮毫パフォーマンスをして観客を湧かせたり、夏休みの合同合宿の合間に海に遊びに行ったおり、浜辺で書道の大事な考え方を学ぶなど、書道漫画として実に見事な展開が続く。3巻くらいまでは書道初心者にとってすごく大事な基礎が学べる教材としても秀逸なんではないかと思う(私は書道やったことないので適当なこと書いてるけどたぶんね)。

3巻になると書道作品におす篆刻(朱のはんこ)を作る話が出てくる。顧問の影山先生は書道の中でももっともマニアックと言われる篆刻マニアのようで象形文字から始まった文字の進化の歴史を長々と語りだす。物語の展開としては実にかったるくて小難しい話で、作者もおそらくさらっと読み飛ばされることを覚悟で
描いているのだろうが、私は個人的にこういった話にすごく惹き付けられた。「右」という文字と「左」という文字では一画目の筆順が違う。「左」は横線が一画目で「右」は斜めに書き下ろす縦線が一画目だそう。楷書や行書で書くときはわからなかった筆順の謎も、篆書で書いてみるとその合理性がわかってとても興味深い話になっている。
5巻には龍門石碑の話が出てくる。実は私、書道はやったことないのだがフォント(書体)が結構好きで、この名前には見覚えがあった。ダイナコムウェアという会社のダイナフォントには龍門石碑体という書体がある。角張った力強い書体で個人的にかなり好きなフォント(使う機会があるかどうかは別として)。作中では北魏楷書と書いてあったが、楷書としてくくるにはあまりに特徴的で目を引く書体だと思う。
中国の龍門石窟の仏像(世界遺産)の横に刻まれた文字で、龍門二十品と呼ばれる有名な書を見たさに日本からも書道家が結構見学に訪れるらしい。中でも有名なのが「牛橛造像記(ぎゅうけつぞうぞうき)」。これは息子・牛橛を亡くした母親がその魂の安寧を願って書かれたもの(別にこの母親が自分で書いた書ではない)で、北魏楷書の傑作らしいのだが、これも当然石に刻まれた文字。
ここで書道未経験者には疑問が…。この書が傑作と言われるのはわかるが、なんとなく、この角張った感じは石に刻んだものだからこそできた偶然の産物ではないかと勘ぐったりして…。現代の書道家たちがこれを見本に筆で臨書することに意味はあるのかな。まあそれはさておき、こんなところに脱線して興味が湧いてしまうところもこの漫画の魅力。
7巻になると、縁のおばあちゃんがかなの書を教える講師として書道部に顔を出すようになる。その昔、書(文字)といえば漢字で書くのが当たり前だったころ、日本人はやはり外国語である漢字で心の中を表現することに物足りなさを感じるようになってきた。思いの丈を存分に表す方法として「かな」が生まれたそう。ちなみに「かな」とは「仮名」。漢字のことは「真名」というのだそうだ。えーと、この辺のおばあちゃんが語る仮名の話は抜群に面白いんだけど、あまり書くと壮大なネタバレになるし、この面白さを私が文章で伝えられるとは到底思えない。興味を持った人は是非漫画を読んでもらいたいと思う。

12巻では縁たちも2年の夏合宿。恋愛模様もいよいよ動き出しそうな予感。ちなみに私は宮田さん派です。